40代〜そこからどう結実するか

たぶん52〜3才頃。「結実」のあと。写真はWikipediaより

この前買った『インサイドアップル』(早川書房)の書評をしようと思ってだいたい読んだのだが、同書のポイントである「アップルの組織形態」よりも、そうした独特の組織をつくらざるをえなかった(というより、今の組織形態にするためにいろいろな人を追放した)スティーブ・ジョブズの生き方にどうしても興味が移ってしまう。

まだ半分支援者の僕としては、ジョブズのような激しい性格の人に対して少し専門的見方もしてしまいそうになるが、そこはぐっと我慢してジョブズの人生を振り返ってみると、彼がiMacとOS-Xでアップルに華々しく復帰したのは、42才の頃だった。
そこから56才で亡くなるまで、わずか14年間。
でもよく考えてみると、29才から41才まではNeXTを設立したり家族を形成したりしてはいるが、基本的に地味〜な12年間を過ごしている(地味といっても、現在のOSの雛形の開発とかCGアニメのPIXARも設立したりしているので異形ではあるのだが)。

ジョブズの第一の成功は早く、25才にしてすでに億万長者になっている。そこから4年後にアップルを追い出され、地味〜な30代を過ごし、42才以降はスパークし続け、50才前より癌との闘病が始まる。

そういえば、『失われた時を求めて』の岩波新訳版も最近僕は読み始めたのだが(同作はいまだ完読できない)、作者マルセル・プルーストも、第一巻『スワン家の方へ』を出版したのが41才の時。51才の若さで病没するまで同作を書き続けた。
資産家に生まれたプルーストは生涯働いたことがない。まるで、『失われた時を求めて』の題材を得るための40年間を過ごし、その題材を元に40代をスパークさせ、50才になってすぐに病没した。

ジョブズやプルーストのような社会的成功者の人生をそのまま我々庶民の人生と類比させるつもりはないのだが、 かれら有名人だけではなく、人生とは、意外と40代以降にスパークするものなのだ、ということを最近僕はしみじみ考える。

たとえば僕自身、淡路プラッツの代表になったのが38才の時だった。その2年前の36才の時に、恩人の蓮井学塾長が病没し、僕はプラッツの非常勤スタッフになっていた。

その頃僕は、自分の人生を模索しており、大阪大学で臨床哲学を学び始めていた。心理学でもなく、社会福祉でもない、それら学問群を「基礎づける」最も根源的ジャンルである「哲学」しかない、とたどり着いたのが35才頃、そこから5年の間に蓮井さんが亡くなり、プラッツはNPO化し、僕がその代表になった。プライベートでは、父親が亡くなるなど、その他たくさんの激動な出来事があった。

僕が40才時、日本に「ニート」という言葉が広がり始めた。いまは法政大学の准教授になったH先生とともに、東大・玄田有史先生のミニセミナーに参加したのもその頃。
そこからあれよあれよという間に若者関連の予算が拡大し始め、僕もわけがわからないうちにその激動にのみ込まれていた。そして、2年前の46才時、脳出血で倒れてしまった。

まあ、僕のように倒れてしまっては元も子もないが、たとえば僕にしても、自分なりに最も充実したのが40才以降である、と認めざるを得ない。20代、社長の松本君とともに「さいろ社」という出版社を立ち上げある程度「食べていく」ことはできたが、あれは、松本君の努力と野望に僕は寄り添っていたにすぎない。

僕の人生が結実しているのは、40才以降である。その結実の仕方は、まあそこそこで、それほどたいしたことはないけれども、まあ自分なりにはよくやっていると思っている。
その「よくやっている」納得の仕方は、自分の能力(才能も含めて)と努力とやはり比例する。40才を過ぎると、自分の限界は自分がいちばんよくわかるものだ。

ところで、これから「ひきこもり」や「ニート」の問題は、40才代の問題になる。そりゃ今から誰もジョブズになんてなれるわけがない。僕は理想主義的支援者でもないから、元祖ひきこもりであるプルーストにも誰もなれないだろう、と言ってしまおう。
だが、たとえ30才代で働くことができなくても、30代で行なった努力は、それなりのかたちで40代になって現れると思う。
30代の努力は、魅力的な40代を必ずつくる。

僕はこれまで、「ひきこもりの高齢化」として、悲観的なことばかり書いたりしゃべったりしてきた。だが自分が大きな病気を乗り越えもう少しで50才になろうとし、それなりの40代を過ごしてきた結果、人々それなりの「40代」があると確信するようになった。
その「40代」は、 それほどほめられたものではないかもしれない。お金にも苦労するかもしれない。けれども、30代までの人生が、それなりのかたちで必ず意味を持って結実してくるはずだ。

そして、心理的にも40代は安定してきます。★