ゴダールの犬

ゴダールの新作(「さらば、愛の言葉よ」)が神戸で上映されると聞いたので、久しぶりに映画を観に行った。
3D映画らしく、僕は始めて3Dメガネをかけて映画を鑑賞した。

ゴダールの映画らしくストーリーはまったくなかったが、一応商業映画なのでそれらしい人物は配置されている。が、ゴダールの前衛ものに入る作品のようで、それら人物や人物たちが話すセリフは無視してもよいと思った。

チラシ等に書いてある通り、主役は犬であり、人間以外の川や花びらや様々な爆音だ。
特に爆音類の爆音ぶりはひどく、映画を観る際の約束事からはるかに逸脱しており、耳がおかしくなりそうだった。

犬から見た川、自然そのものかもしれない爆音、超ローアングルの川、これらは人間が無意識に信じる約束事(世界そのもの)を逸脱する。
時にそれは異常にきらめき、異常に暴力的だ。いずれにしろ人間の許容範囲(言葉の世界)を少しだけ逸脱している。

哲学用語を使えばあっさり説明できる世界を、ゴダールはしらばっくれる。
代わりに、犬の目、その目を通した奇妙な映像類で埋めていく。映画の途中から僕は、人物たちの小難しい会話よりも、水面や犬を待つようになった。
言語の諧謔が背景化するほうが気持ちいいんですね。

あと、子どもたちが走っていく姿も美しい。

映画は最後、赤ちゃんの産声と犬の鳴き声を被らせて終了する。
いずれも「意味」が生じる以前の声だ。たぶん80才を過ぎたゴダールは、言葉による(あるいは既存の映画ルールによる)「世界」の産出に飽き飽きしたんでしょうね。

それでも商業映画を作るのだからスゴイ。★