Facebookの限界とタテマエ


■タテマエとどうつきあうか

僕がFacebookを利用するようになって3年くらいになるのかなあ。
細かい年数はよくわからないが、ドーナツトークを再興した2年半前にホームページをつくったとき、Facebookページをリンクしたことでずいぶん更新が楽になった(HPが動く)ことを覚えているので、やっぱり3年はたっていると思う。

この間、よほどのことがないかぎり毎日Facebookに何かを書いてきたが、この頃、Facebookの効用と限界というものを日々実感するようになった。

そのFacebookの効用と限界、特に「限界」のほうが、僕を20年以上前にタイムスリップさせている。

それは、僕が「さいろ社」という個人出版社のたちあげを手伝った時に、メディアや「表現」全体に関して抱いていた感触を思い出させる。

つまりは、我々が社会問題を論じるときにぶつかる問題、

「我々に刷り込まれているタテマエとどう我々は向き合うのか」

を思い出させてくれているのであった。

■看護師たち、そのホンネ

さいろ社をつくったとき、僕は、メディア(当時は新聞とテレビ)が基調とするタテマエに対して不満だった(おそらく代表の松本くんも)。

メデイア、あるいはジャーナリズムは、「格好」をつける。
あるいは「正論」を投げかける。

が、僕が取材で松本君と日々出会っていたいた看護師さん(当時は看護婦)たちは、そうした正論やタテマエは十分理解しながら、看護職をやめたがり、患者のことを思いやりながらも毛嫌いし、医師のことを尊重しながらも馬鹿にしていた。

延命処置のバカバカしさを嘆きながらも、それを望む家族と患者本人のニーズと看護師さんたちは向き合っていた。

また、重症心身患児病棟で、看護師さんたちは患児の苦しさに向き合いつつ、患児たちに1年以上面会に来ない家族を恨みつつ一方でその気持を理解していた。

また、手術室器具の滅菌作業を日々行なう看護師の滅菌にかける思いを聞きつつも、滅菌の「看護的末端」作業の虚しさについて諦めきっている愚痴をよく聞かされた。

また、地域医療に熱い情熱を捧げる老医師の熱情に圧倒されながらも、まったく中央メディアから見向きもされないことに対するくやしさを日々聞かされた。

■弱者が明確化され、敵が見える

書き出したらキリがない。
が、これら現場の医療者には常に「ホンネとタテマエ」があった。

メディアは、彼女ら彼らのタテマエとしての憤りまでは接近することはできる。が、その底にある、上に書いたようなホンネの言葉はなかなか聞き出せないでいた。

そこを初期のさいろ社(松本君と僕)は聞き出すことに集中した。その結果、「看護婦はなぜやめる」という特集が生まれたりした(これは朝日の天声人語に取り上げられた。また、脳死臓器移植の単行本がNHK教育テレビの1時間特集になった)。

我々は社会問題を考えるとき、どうしても真っ当な主張から始めてしまう。
その真っ当な主張は、その真っ当さが社会から潜在化させられているために最初は力を持つ。

が、真っ当さの潜在性が顕在化させられると、なぜかそれは窮屈になってしまう。顕在化により、それまで注目されなかった問題にスポットライトがあてられるが、その明りと引き換えに、何かを引き渡してしまう。

引き渡した結果、問題がもつ複雑さがシンプルとなり、わかりやすくなる(問題に関する「弱者」が明確化され、「敵」が見える)。
そのかわり、何かを失う。

■ホンネに正論はない

その失ったものが、上に書いたような、看護する人たちの呻きと嘆きだ。
それは言い換えると、「ホンネ」と呼ばれるものだ。

ホンネには正論はない。ホンネには「悪」も埋め込まれている。が、そこには「正義」への希求もある。悪も正義も一体となった呻き、それがホンネであり、ふたつを差し引きして少しマシなほうが取り上げられるメディアになりたいと〜それはマスではないだろうが〜、我々は思った。

それは今のofficeドーナツトークにも綿々とつながる思いでもある。

Facebookが日本に輸入された直後からこのサービスを利用してきて、この頃どうにもFacebookに窮屈さを感じるようになっている。

そこは「正論」が満ち満ちているから、かもしれない。また、そうした正論に含まれる暴力性(ホンネの隠蔽作用)について、Facebookの人々があまりに無自覚なため、かもしれない。

が、Facebookを使ってマイノリティの声を代弁する人々の思いも十分僕は理解しているつもりだ。
また僕自身も、そうしたホンネの「代弁作用と隠蔽作用」のメカニズムを理解しながら、隠蔽してしまうことに対するジレンマを抱える。

このような点から僕はFacebookの限界とタテマエを感じ、これは表象一般に伴う現象だろうと思い、一般化していこうと思っている。★