とりあえず叫べ、そしてグレコのギターを買おう


■貧困と暴力は、我々人間社会にとっては永遠のテーマ

当欄をリニューアルしたのは、Yahoo!ニュース個人に書いたこの記事がきっかけだ。
虐待連鎖の切断のための、ビートルズ

児童虐待とは、貧困問題の中核だ。メディア上では両者は切り離されているが、児童虐待はもはや「下流階層エートス」の中心のひとつであるといってもいい。

下流層の人々は、子どもをたたくことを基本的に「しつけ」だと思っいる。それは、自分がそうやってしつけられてきたからだ。

死亡させたり大怪我させることは悪いことだが、暴言や軽くこつくことは基本的には必要悪であり、仕方のないことだと確信している。人によっては「よいこと」にそれは含まれるかもしれない。

ここで言う微妙な虐待ではなく明らかに児童虐待しない大人でも、理不尽な子どもの要求に手を焼きほったらかしにする場合があるかもしれない。
そのほったらかしは児童虐待ではないが、ほったらかされた子どもが爆音で泣くその声だけを聞いてしまう第三者は虐待だと思うかもしれない。

それだけ児童虐待は定型化しにくいものであり、無邪気に定型化する専門家の議論を聞くと、なんて人間をわかっていないんだろうと僕は思う。フォークナーやマルケス、中上健次までとは言わないが、せめて村上春樹や萩尾望都くらいは読めよと言いたくなる。

それだけ、貧困と暴力は、我々人間社会にとっては永遠のテーマだ。暴力はいやだけども、児童虐待が社会問題になったのは、ゼロ年代に発達障害が現れたのと同じく、現代社会がそれを問題化したものだと僕は基本的には考えている。

■たたく文化(どなる文化も)は、全体的に「狭い」

下流層では児童虐待は連鎖していく。それは一子相伝の文化のように、たたかれた者が当たり前のように次の「小さい人」をたたいていく。

そしてそのたたく文化(どなる文化も)は、全体的に「狭い」。上に書いたような、フォークナーやマルケスなど当然人々は知らず(実践しているが)、村上春樹さえ知らない。

彼らのしつけ/虐待文化を支えるものは紋切りテレビ文化であり、紋切り芸能文化だ。
それは、地上波テレビのバラエティやエグザイル的アレな音楽やワンピース的アレなアニメだ。

それらはヤンキー文化としてくくっても問題はない。バラエティに登場するヤンキーなタレントたちが人気があるのは、つまりはこの10年は下流層が4割の構成になり、下流層の中心であるヤンキー文化が大手を振ってるからだ。

このヤンキー/下流文化は「なかま」的連帯感はあるけれども、文化的には浅い。エグザイルやワンピースは芸としては完成されているが、いずれも紋切り的/下流的価値から出てはおらず、仲間や愛や努力等を真剣に信じる単純な世界観だ。

が、その単純さ故に共感を呼び、時には笑いも誘うが(ヤンキー文化は自分をパロディ化する余裕がある)、決して既成価値から飛び出ない。

男は女を愛し、男は体を鍛え女は体を磨き、下は上を敬い、カネがすべてを支配し、子は親を敬い親は子を守る。これら以外にもたくさんたくさん、紋切り価値がはびこる世界、それが下流世界である。

■グレコのギターをバイト代とお年玉で買え!

虐待の連鎖は時に死亡事故等も生むが(これには軽度の知的障害が絡むと思うので別に書く)、ワンピース的下流文化の連鎖も生む。この支配力は強い。

僕は、虐待と貧困の連鎖から飛び出るには、「文化の力」が役に立つと思っている。それはエグザイルの真似をしてぴょんぴょん飛び跳ねることではない。

とりあえず、叫ぶことだ。

それは、
Don't let me downでもいいし、
Get backでもいいし、
Sympathy for the devilでもいいし、
imagineでもいい。

エグザイルとワンピースの世界から少しだけ出て、誰もが知っているらしい「ロック」という音楽を少しだけ齧ってみることだ。

そして、ギブソンとかいうメチャ高い楽器ではなくグレコで十分なので、そのくねくねした重い楽器を肩からぶら下げて、「Fコード」を上から下へジャーン! と奏でてみることだ。

その、ひとかなでが、ハイティーンが長らく生息してきたエグザイルとワンピースの世界から出る扉になるかもしれない。

その扉が、つまりは貧困の連鎖からの脱出、虐待をしつけと肯定しない別の文化への飛び込みとなる可能性を秘めている。

ジム・モリソンの言う「ドア」は、よく言われるようにブレークの詩からとったのだろうが、最近の僕はそれには別の由来があったんじゃないかと思っている。

貧困と暴力の連鎖を打ち破るために、行政システム構築やNPO支援もいいけれども、10代に「ロック」、特に60年代後半のアルシ(源)ロックを聞かせてあげたい。

モリソンの言う、
Break on through to the other side

のアザーサイドこそを下流ハイティーンに目指してほしい。そして、貧困と虐待の悪魔の連鎖から抜け出してほしい。

そのために、叫ぶ、そしてグレコのギターをバイト代とお年玉で買う。★