「劣化する支援」とは〜代表、代弁、表象のマジック


■代表、代弁、表象

現在の学習支援や子ども食堂が対象とするのは一部の貧困層であり、それは歴史と地縁の中で支援サイドと世代重層的(父母や祖父母)に繋がってきた人々が多く含まれると予想する。


その問題を考えるためには、G.スピヴァクが『サバルタンは語ることができるか」』で問いかける、いくつかの「リプレゼンテーション(英)/ルプレザンタシオン(仏)」が参考になる。それらのリプレゼンテーションは以下の4つがあると僕には思える。

リプレゼンテーション①フーコーとドゥルーズに見られる、「透明な存在」としてマイノリティを語る/代弁する人々(知識階層に多い。一般支援者にも見られる)。自分の立ち位置はさておき、「弱い人々」としてのマイノリティを一方的に語る。

リプレゼンテーション②マイノリティの中でも比較的見えやすい層。『サバルタン〜』では、地方の名士が事例化されている。現代日本では、僕が「貧困エリート」と表象する、比較的地縁があり子ども食堂や学習支援とつながることのできる人々。

リプレゼンテーション③ナポレオン3世に見られる「ズレる代表化」。ルイ・ナポレオン=ナポレオン3世は「喜劇」として(マルクス)語られた。これも①と同じく、②を代弁する。現代日本では当然、僕が「劣化する支援」等の中で言及する「NPOリーダー」たちである。

リプレゼンテーション④スピヴァク『サバルタン〜』ラストに取り上げられる自殺した少女。彼女の死はマイノリティ運動の挫折の可能性があるが、インド社会は恋愛のもつれとして表象した。

リプレゼンテーションの意味において、①〜③は「代表」の意味合いが強く、①と③では「代弁」の意味も強く、④は「表象」の意味合いが強い。いずれもリプレゼンテーションの和訳だ。

■いきなり「喜劇」として、NPOリーダーとなる

現在日本の貧困支援に起こっている状況は、以下のように進行する。

リプレゼンテーション②の見えやすい層(これを僕は「貧困エリート」と表象した。見えやすさを強調することであえてこの表現を用いている)を主対象としつつ、その対象化は、同時に、地縁がなく見えにくい貧困層を潜在化させる(これが虐待サバイバー=ポスト要対協と重なる)。

見えやすい層は、富裕層の多い地域(たとえば文京区や西宮市の貧困支援)で貧困支援の対象となる。これは、リプレ①や③の、「代弁する人々」の機能あるいは怠慢の結果でもある。

こうしたメカニズムの中で、①の「透明な支援代表者たち」が自らの存在を消して(具体的には出身地や経歴を曖昧にして)、また③の「組織を代表する人々」が④の存在を看過し(というか気づけず)、②に自らの組織の機能を集中させる。①も③も、結果として②を支援対象とする。

現在は、マルクスが『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』で語ったような事態は日本には到来していない。
つまり、マルクスのいう1つ目の悲劇(ナポレオン1世)も日本のソーシャルベンチャー界には出現していないが、いきなり「喜劇」としてのナポレオン3世が「NPOリーダー」として現れている。NPOリーダーはみな底が浅い(単純なポリティカル・コレクトネスだったり、「カネ」に飢えすぎだったり、批評に耐えない言説ができたり、そもそも発信できなかったり)。

その喜劇は、はマルクスの言う通り、無邪気な大学生(フランス労働者たち)たちによって圧倒的な支持を得る(ルイ・ナポレオンも、都市労働者に支持された)。

■真の貧困層は常に隠される

こうした喜劇のなか、④の真の貧困層は常に隠される。

それは怠け者というレッテルを貼られ時に虐待加害者になったりするが、虐待被害者でもあり彼女ら彼らの持つ被害結果としての軽度知的障害やPTSDは隠蔽される。

僕が最近の原稿の中で、リプレゼンテーション②を「貧困エリート」とあえて呼んだのは、現在の貧困支援者たちの注意をひくためでもある。
representation のもつ普遍性は、社会が極端に階層化されるとわかりやすく現れる。罪作りなのは、リプレゼンテーション①〜③のメカニズムが、④の潜在化を生み出すことだ。

サバルタンが語れなくするのは、第一にフーコー的存在(中間支援組織と学者)=リプレゼンテーション①や、ナポレオン3世的存在(NPOリーダー)=リプレゼンテーション③の存在が大きい。

加えて、フランス労働者たち(キラキラ大学生)だが、まずはフーコーやルイ・ナポレオンに自覚してほしいと迫ったのが、迫力のあまり無整理で書き綴った名著『サバルタン〜』だ。

阪大で生スピヴァクを見た時(下の京都賞スピーチの翌日)僕は、その眼光の鋭さとユーモアに感動してしまったが、その眼光には、今日もリプレゼンテーションの罠と格闘し続ける意志を見、僕も少しでも真似しようと誓ったのだった(^o^)



スピヴァク、京都賞受賞時の動画より。この翌日、阪大で語ったスピーチを僕は聞いた。



😌