NPO2.0は「9課」〜小さく速く価値侵食する、「ソーシャル」からは遠い組織〜


■陳腐な「NPO2.0」

この頃僕が書きたいと思うテーマはYahoo!ニュース的支援スキル話題からは遠く離れ、また「劣化する支援」のそのさらに先が見えた気がしている。

それは今のところ「NPO2.0」という誰もが唱える陳腐な言葉でしかないが、現在の「NPO1.0」を超えたところに位置するその社会組織の段階が若干見えてきたような気がしたので、簡単に綴る。

それは以下のような「具体的な組織形態」を指すと思う。

1.現代社会を(功利主義のような浅い紋切り解釈ではなく)深く考察した上で具体的ミッションを持つ。たとえば、「社会に深く広く潜在化する『当事者』に対して、サードプレイスとソーシャルワークを用いて支援する」
2.組織は固定スタッフ3名まで、非常勤とボラ含めても10名まで

3.法人戦略・人事戦略・財務戦略・広報戦略は代表理事が組み立てる
4.必要により他の組織(官民問わず)とくっつくが、他を侵食して内側から新しい価値を混入させ「脱構築」を行なう。

ここでは、「社会貢献とは何か」的思想は後回しにされる。そうした思想は、「社会に貢献することはそもそも善なのか」といった根源的問いには遡らないため、テクニカルな議論に陥りやすい。

また、寄付・税制控除・アドボカシー・認定法人化といったNPO第一世代が当然としてきた価値や制度的目標も前提としない。それらを前提としてしまうと、「特定非営利活動法人」のあり方を問うことなく、これまたテクニカルな議論に陥ってしまう。

NPO2.0とはおそらく、20年以上社会が前提としてきた特定非営利活動法人という形態を問うことでもある。

■①戦争、②災害、③事故、④DV/虐待

上の1〜4に関してだが、
1.については、社会をどうみるかという点も大きい。あるいは、社会における「潜在的問題」をどうフォローするかという議論でもある。

支援系のNPOは、阪神大震災や東日本大震災の支援活動にみられるように、「災害」面ではこれまで大きな役割を果たしてきたと言われる。

これはPTSD支援とも絡み、PTSDの4大原因である、①戦争、②災害、③事故、④DV/虐待のうち、前3者は、被害者たちの「社会階層」はあまり問わない。だが①の戦争に関しては、現在は内戦が主流になってきたため、移民層が多い貧困住宅地が主戦場になるかもしれず、貧困問題も絡んできている。

②と③は被害に遭う人々の社会階層に差はなく、人々を「平等」に不幸が襲う。そのため、支援する側は、支援を求める側と比較的アウトリーチしやすい(が、実は被災地での「幽霊」の問題に見られるように、人間のもつ奥深さも災害や事故には含まれるため、1.0には限界があると僕は見ている)。

が、貧困問題を背景とする虐待・貧困支援に関しては(また、上述のように戦争についても)「真の貧困層」にはなかなか到達しにくい。当欄でもたびたび触れるように、戦争はさておき、④の貧困支援に絞っても、学習支援やクーポン支援を行なう通常のNPO(これを「NPO1.0」と呼ぶほうがわかりやすいと思えてきた)には、これら真の貧困当事者にはアウトリーチしにくい(素朴な平等主義とタコツボ社会がヒューマニズムの「暴力」を生む)。

その原因は、上リンク先の記事(「素朴な平等主義〜」)に書いたので参照いただければ幸いだ。
「届きにくさ」の背景には、功利主義的素朴な社会論があるだろうが、NPO1.0の人々はそこまで考察せず日々の支援に懸命に動く。そのことが④の貧困支援(おそらく①の内戦も)の奥底で生活する人々(奥底といっても、相対的貧困層や生活困窮層は1,000万人前後存在する)を見逃してしまう。

■民主主義はNPOの最前線には馴染まない

2(少数組織)と3(戦略はトップの仕事)はコインのオモテウラで、また、特定非営利活動法人的「民主主義」的意思決定組織が、実は最前線のNPO的分野(虐待や内戦)には馴染まないのではないかという問いも含まれる。

NPOが扱う最前線のジャンル(虐待は児相の仕事だがそれに付随する出来事でもスピーディな決定が必要)においては、早い意思決定が求められる。
また、そうした早い意思決定を行なうために、小さな組織が必要にもなってくる。

その際、現在の特定非営利活動法人にみられるような民主的な意思決定を行なっていては、とても間に合わない。
それは小さい組織内でスピーディーに行なわれ、ネットワークする関係機関にスピーディーに伝わり、諸機関がスピーディーに決定し行動する。

これらを、いちいち「上」(何層もあったりする)に上げていては、遅い。
だからおそらく今の特定非営利活動法人の現場においても、民主的決定は後回しにされていることだろう。
現実が、NPO学者たちが想定した事態をすでに上回っているが、組織形態は法設立のままでありそれどころか「認定〜」等の更なる重さで権威付けが図られている。

NPO1.0は1.0どころか、「重力の中心」へと引き摺られつつある。それは重い。

■リゾーム

4.はデリダのいう「脱構築」のことだが、本エッセイも長くなったので簡単に。
マイナーとメジャーがある時、マイナーはメジャーと正面から対立せず、メジャーのもつ「矛盾点」を発見してその穴から侵入する。そしてメジャーを持続的に肯定しつつ矛盾点が裂けるまでともに行動していくと、いつのまにかメジャーが変わり始める。

これはあまりに楽天的ではあるが、デリダがテキスト批評で行なう手法を、僕が現実に応用する方法だ。革命よりも弁証法よりもこれは遥かに効果があると思われ、誰にも気づかれることなく「転覆」させることに有効だと直感する。

以上、もっと短く書くつもりがダラダラと書いてしまった。
これはまるで、たとえは悪いが、「攻殻機動隊」の公安9課に似ている。あるいは恥ずかしいけれども、ドゥルーズのリゾーム概念の具現化のようにも思う。これは革命よりも遥かに効果があると僕は思っている


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